CSR・環境

ふるさと支援フォーラム:6人がユニークな地域づくり報告 ニコ生で配信も

2019年06月24日

全国各地でユニークな地域づくりに録り組む6人


 地域づくりの先進事例を紹介する「ふるさと支援フォーラム」(内閣官房主催)が6月19日、全国都市会館大ホール(東京都千代田区)で開かれ、全国各地でユニークな地域づくりに録り組む6人が事例発表。インターネット動画配信「ニコニコ動画」ではその模様が生配信された。

 フォーラムは、ふるさとづくりに取り組む実践者の活動報告を通じて、地域のさまざまな資源を活用したふるさとづくりの有効性や、住民やコミュニティ主体の地域に根差した取り組みを進めていく重要性を発信することを目的に開かれ、全国でふるさとづくりに取り組む6人の実践者が事例発表し、有識者でつくるふるさとづくり支援チーム(座長・小田切徳美・明治大学教授)のメンバーがコメンテーターとして参加した。

 冒頭、司会を務めた江藤拓・首相補佐官は「安倍首相から、ふるさとを元気にする施策を展開してほしい、と言われ、会議を開いていく中で、地域創生に取り組むパワフルな方々の熱を感じてほしいと思いました。会議では議事録に残るが、熱は伝わらないのがもったいないと思った。会場だけでなく、ニコニコ動画を通じて私もやりたいと思っていただける人が一人でも増えればと思います。ふるさとづくりには、人を作ることが一番大事なんです」とあいさつ。また、安倍晋三首相もビデオメッセージを寄せ、「ふるさとを愛する気持ちをはぐくみ、誇りあるふるさとを作る、その精神こそ魅力ある地方を創生する力の源泉です。これまでのふるさとづくりの取り組みの成果を踏まえ、ふるさと活性化支援チームをつくりました。各地でがんばっている方々を応援していく。そのメンバーがフォーラムにも参加しています。令和の時代、見事に咲き誇る梅の花のように、ふるさとづくりを力強く応援してまいります」と述べた。

ふるさと支援フォーラムにビデオコメントを寄せた安倍首相


 事例紹介では、まず岡山県で農山村での若者支援事業と移住促進を進めるNPO法人山村エンタープライズ藤井裕也さんが登壇し、自身が2011年から同県美作市で地域おこし協力隊として活動した経験を「東日本大震災をきっかけに何かやりたいと思い、学生から地域おこし協力隊になった。草刈りから始め、100ぐらい失敗して、3つぐらい成功した」と振り返り、地域での体験を通じて引きこもりの若者の自立支援に取り組む「人おこしプロジェクト」や地域おこし協力隊のOBをネットワーク化して、人材育成につなげる取り組みを紹介した。藤井さんは、行政の課題や取りまとめ役の不足、人材育成をふるさとづくりの「三つの壁」に挙げ、「地域には人を再生させる力がある。三つの壁を取り払ってふるさとを元気にしたい」と語った。みらいバリュークリエイティブの吉田聡子社長が人おこしということばは素晴らしい。地域の人がいかに安心して暮らし続け、幸せになれるかが大事。もう一つが人材不足。全体を見渡してプロジェクトを進めていくプロデューサーが不足している」とコメントした。

 次に、北海道釧路市でクラウドファンディングを活用した土産物のキーホルダー開発に取り組む夏堀めぐみさんが、家業のラーメン店を有名にするためにふるさとに戻り、魅力的な人材を紹介するサイトやフリーペーパーの発行、子供向けのITスクールの設立などに挑戦し、さまざまな苦労を経てクラウドファンディングによるキーホルダーの開発に成功した経験を語り、「いろいろ動いた結果、町やネット上にたくさんの仲間ができで、いろいろな気づきを得られた。人と比べず、目の前のことに集中すれば、評価は後からついてくる。何かやりたいと思ったら情熱の赴くままに動いた方がいいと思う」と話した。全国の職人とオリジナル商品を開発する「和える」の矢島里佳代表は「いろいろなチャレンジをしてもうまくいかないという経験はある。私も伝統産業の職人の魅力に惹かれ続けて振り返ったら、応援してくれる人がたくさんいた。地域への愛を持って続けていたことが伝わっていったのだと思う。できると思う自信を持つことがつながっていく」と評価した。

 石川県能登半島でのインターンシップなどに取り組む森山奈美さんが、横浜の大学を卒業して七尾市にUターンした際、「
帰ってきたらもったいない」と言われたが、「2007年の能登半島地震後から、地域で自分らしい生き方を探り始めた人が出てきた」といい、そうした人たちをつなげながら「小さな世界都市七尾」を目指して、世界に通用するおもてなしや商品、一人一人の世界観を実現する取り組みを続け、地域へのインターンシップ「能登留学」を始めたことを紹介。「最初から移住を目標するのではなく、やる気のある学生に地域の課題を解決するために長期のインターンとして来てもらった。学生たちは『能登に来たいのではなくて、やりたいことがあるから来た』といっている。私たちが課題だと思っていたことが若者を引きつける宝の山だった。地図をひっくり返してみるように見方を変えると気づきがある」と語った。ふるさと支援チームの座長を務める小田切徳美・明治大学教授は「まず移住、定住など何か目指すのではなく、地域おこし協力隊やインターンはそこで過ごすことが大事。地域とのネットワークをつくったり、課題を発見したりできる。これが新しいふるさとづくりの発想だと思う」とコメントした。

ニコニコ動画でも配信された


 鹿児島県上甑(こしき)島で地域ブランド確立に取り組む山下賢太さんが、中学卒業後島を出て競馬の騎手を目指したが、減量に失敗して、島の先輩に誘われて漁師として働いていたとき、ふるさとの原風景であった港にあった大きな木を父が自分のために更地にした経験から、「ふるさとは思いだけでは守れない、経済を守っていく必要がある」と、農業を始め、古民家を再生して、週末は住民や観光客が集まる拠点に整備。さらにお世話になった先輩が新しい船を買った借金が返せず、漁師を辞めたことをきっかけに、漁師を主役にして、漁をについて語り、伝えていくイベント「フィッシャーマンズフェス」を立ち上げ、全国に広げた取り組みを紹介し、「ふるさとの誰一人取り残さないでいける企業にしていきたい」と語った。映画などロケを通じて地域を盛り上げるロケツーリズム協議会の藤崎愼一会長は「ふるさとづくりには、ストーリー、人の連携、打って出ることが大事。山下さんは行政に頼らずに、自分たちだけでやってきた。リーディングカンパニーとして、日本全国に広げていってほしい」と応援した。

 宮城件気仙沼市への移住・定住をコーディネートしている根岸えまさんは、東日本大震災の学生ボランティアとして気仙沼に行ったとき、一人の漁師と出会い、漁業への使命感を知って感動し、同市に移住。同じように半島へ移住した女性を「ペンターン女子」と呼んで、シェアハウスで共同生活を続け、現在12人にまで増え、地元で結婚した女性もいることを紹介した。なぜ移住者が集まるかについて「ここに来ると、何かできるかもしれないという『関わりしろ』がある。何のスキルもノウハウもなくても、空き家に住んで、祭りに参加するだけでも喜ばれる。明日出会う人が人生を変えてしまう、という予感がある」と話した。矢島さんは「関わる余白を地域が見せてくれて、若い人の存在を肯定してくれるところから移住が始まる。かっこいい大人に出会ったことから、女子たちが集まってくる。私も伝統産業の世界でかっこいい大人に出会って引きつけられた。地域に人を引きつける大きな力になる」とコメントした。

 秋田県五城目町で地域づくり協力隊を経験した丑田香澄さんは、「世界一子供が育つ町」をスローガンにふるさとづくりに取り組み、廃校を活用したレンタルオフィスを拠点に土着のベンチャー「ドチャベン」を誘致、都会と田舎が豊かさを分かち合うシェアビレッジを立ち上げ、年会費を『年貢』、交流会を『寄合』と呼んで2000人以上を集めた。そこから地域の女性の起業を応援するプログラムや地域の学校に世界的な企業家や研究者を招くプロジェクトなどを展開してきたことから「子供から大人までワクワクしながら遊び、学んでいくプレイフルなまちづくりを目指している」と報告した。吉田さんは「地域づくりには心を一つにできるビジョンが必要。プロジェクト名や商品名を考えるとき、そのものが持つ価値を表すことが大事だが、『ドチャベン』はビジョンが込められている。『年貢』を納めて『村民』になるというのは素晴らしい。このことばを掲げるだけで共感できる。価値をことばに表して伝えて、多くの人を巻き込んでいってほしい」と評した。

ふるさと支援チームの座長を務める小田切徳美・明治大学教授


 6人がニコニコ動画の視聴者からの質問に答えるなどネットでの展開もあり、最後に小田切教授が「ふるさとということばを使ったのは正解だった。ふるさととは何か、ということから奥深い議論ができた。自分が生まれた場所をいかに盛り立てるか、関係人口は関わりを持つこと自体が、移住者はどうやって仕事をつくるか。ふるさとづくりは多様だということが見えた。ふるさとのあるべき姿は、地元、関係人口、移住者などがごちゃまぜになっている場所があり、地域の資源や人材、誇りの場、そしてとにかく小さなアクションを起こし、他人事ではなく、自分事にすることで当事者意識を持つことで人々を巻き込むことができる場。そんなことができる場をつくっていくことがふるさとづくりだと、はっきりと方向性が感じられた」とまとめた。