2023.06.02

これからのワークスタイルを考察する。

働き方改革とは、一言でいえば「一億総活躍社会を実現するための改革」だ。 一億総活躍社会とは、少子高齢化が進む中、「50年後も人口1億人を維持し、職場・家庭・地域で誰しもが活躍できる社会」のこと。そのためにはより多様な働き方を可能にし、中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避することが重要となる。そして成長と分配の好循環を実現するため、働く人の視点に立った取り組みが今後さらに必要とされていくだろう。今まさに議論を繰り広げられている外国人雇用促進の是非についても、そうした働き方の改善や積極的な企業の取り組みがあってこそ。まずは現状の課題と向き合いながら、その働き方について考察する必要がある。

これからのワークスタイルを考察する。

今のタイミングで一億総活躍社会を目標に掲げた背景には、「生産年齢人口が総人口を上回るペースで減少していること」が挙げられる。労働力の主力となる生産年齢人口(15~64歳)が想定以上のペースで減少しているためだ。現在の人口増加・減少率のままでは、2050年には総人口9000万人前後、2105年には4500万人まで減少すると言われており、急激な労働力減が予想されている。実際の働き手となる労働力人口は、第二次ベビーブームに生まれた団塊ジュニアが労働力として加わった24年前がピークで、1995年には8000万人を超えていたが、それ以降は減少。国立社会保障・人口問題研究所が発表した出生中位推計の結果によれば、生産年齢人口は2013年には8000万人、2027年には7000万人、2051年には5000万人を割り、2060年には4418万人となる見込みだ。このままでは国全体の生産力低下・国力の低下は避けられないとして、国を挙げた「働き方改革」がスタートしたきっかけとなっている。

労働力不足の解消には3つの対応策が考えられており、働き手を増やす(労働市場に参加していない女性や高齢者)、出生率を上げて将来の働き手を増やす、労働生産性を上げる、といった取り組みが有効だとされている。しかし、中でも問題視されているのが労働生産性だ。日本の労働生産性はOECD加盟国の全35カ国中22位となっており、主要7カ国の中では最下位。未だ抜本的な改革はなされておらず、現在では社会問題となっている長時間労働や非正規と正社員の格差、労働人口不足(高齢者の就労促進)など、働き方改革を推し進める上での課題はいくつも挙げられる。

とくに日本の長時間労働については以前からも大きく問題視されており、過労死や精神的なハラスメントによる自殺が職場で発生し続けている現状も後を絶たない。国際的にみても日本の長時間労働は深刻で、働き盛りの30~40代の長時間労働の割合が特に多い状態が続いている。そして、残業や長時間労働だけでなく、転勤・配転の命令にも応じなければならない環境があるのも実情だ。また長時間労働の問題は、「出生率」にも大きく影響していると考えられている。長時間労働を望まれる年齢と、出産・育児年齢が重なるためだ。女性がキャリアの中断や育児との両立の不安から出産に踏み切れなかったり、男性も育児・家事への協力がしにくいという現象につながっている。

戦後の高度経済成長期以来、働けば働くほど待遇があがっていく状況のなかで「睡眠時間が少ないことを自慢し、超多忙なことが生産的だ」といった価値観が生まれた。しかし、終身雇用あっての「モーレツ社員」は今や時代に合わない思想となり、現代では法改正による時間外労働の上限規制の導入や、勤務間インターバル制度導入に向けた環境整備、健康で働きやすい職場環境の整備など、各企業の働き方に足並みを揃える向きが出始めている。特にポイントになるのが「法改正による時間外労働の上限規制の導入」だ。

日本では、フルタイム労働者の年間実労働時間は2000時間前後で20年近く横ばいとなっており、本来であれば、1日8時間/週40時間を上限とする労働時間のためには労使協定書「36協定」が必要となるが、その延長時間にも上限基準があり、1カ月45時間、1年間360時間までしか残業させてはいけない決まりもある。しかしこれにはやや問題があり、「特別条項」という条件を労使協定に加えることで、無制限に労働時間を延長することが可能。労使合意があれば、どれだけ残業しても良い仕組みになってしまっていた。この特別条項に関する法律を見直すのが働き方改革の取り組みの一つで、残業時間の特例は1カ月100時間、2~6カ月平均80時間に制限されることになった。同時に、労働基準監督署の立ち入り検査対象も増加している。また大企業を対象に、月50時間を超える時間外労働賃金の割増率を50%とする労働基準法の規定がすでに適用されている。

日本の非正規社員の待遇は、正社員の時給換算賃金の約6割にとどまり、欧州では8割ほどであることから、非正規・正社員の格差は激しい現状となっている。そして育児や介護の負担を抱える女性や高齢者が、正社員のようなある意味「制限なし」の働き方を選ぶのは限界がある。結果的に非正規としての働き方を選ぶことになり、生産性を発揮する機会を損失しているのが現状だ。非正規で働く人は労働者全体の約4割を占め、この層の待遇・働き方を改善するのに待ったなしの状況にきていることは否めない。働き方改革ではこうした点も注視し、「非正規社員の待遇改善」に向けた様々な取り組みが行われている。同一労働同一賃金の実効性を確保する法制度とガイドラインの整備や、非正規雇用労働者の正社員化などキャリアアップの推進、非正規社員の賃金を正社員に対して6割という今の現状から、欧米並みの8割まで引き上げる目標も掲げられている。

労働によって、同じ付加価値をもたらす人には同じ賃金と支払うべき、という考え方が「同一労働同一賃金」だが、政府はこれを働き方改革の目玉として位置づけている。たとえば、非正規のベテラン社員の給与が、新卒正社員も格段に安いといった場合、是正されるべき方向で検討され流ということだ。その目的は「将来的に非正規という枠組み自体をなくし、ライフステージにあわせた働き方を選べる」ことを可能にし、経済的な観点から見ても、デフレ解消にもつながるとされている。

今の日本では、高齢者の約6割が「65歳を超えても働きたい」と考えていることが国の調査で判明しているが、実際に働いている高齢者は2割ほど。「非正規の格差改善」によって出産・育児・介護による女性の働き方の制限をなくしていくことに加え、現在労働市場に入っていない高齢者の労働参画も重要な課題となっていくだろう。65 歳以降の継続雇用延長や、 65 歳までの定年延長を行う企業等に対する支援など、今後も様々な角度から働き方改革の成果が試されるであろう現代の日本社会。働き方改革とは、何のための改革なのか。その意義を改めて考えてみる必要があるのかもしれない。

転載元:Qualitas(クオリタス)