2022.06.13

がん患者の希望となる生薬「フアイア」を多くの人に届けたい

「会うと何だか元気をもらえる人」というのは、誰にとっても心当たりがあるかもしれない。辛い毎日の中で、その人の顔を見たり話しをしたりすると、自分の心の中に温かな火が灯るような人。そんな火を灯す医師が2020年、自分の医院を開設した。「新見正則医院」───まず人を笑わせ、そして考えさせる研究に送られる“裏ノーベル賞”「イグノーベル賞」の受賞者、新見正則医師による医院である。明らかにエビデンスのある追加治療や再発防止を希望するがん患者が多く訪れる。慶應義塾大学、オックスフォード大学出身の医学博士であり、35年にわたる治療経験を経て、たどり着いた先にあった医療と薬について話を聞いた。

抗がんエビデンスを獲得した生薬「フアイア」

当院は、世界初の抗がんエビデンスを獲得した生薬「フアイア」を使用するクリニックです。漢方薬は、西洋薬と異なり、大規模臨床試験が行われにくく、そのためエビデンスが得られにくいという現状があります。しかし「フアイア」は、2018年肝臓がん手術後の患者さんに対して1000例規模のランダム化(くじ引き)大規模臨床試験が行われて、飲んだ方が明らかに生存率に優位性があると、イギリスの医学専門誌「GUT」で発表されました。

この発表に衝撃を受けた私は、第57回日本癌治療学会学術集会でこの成果を紹介し、大きな反響を頂きました。「フアイア」の原料は、槐(エンジュ)の老木に生えるキノコです。6種類の糖が連なる糖鎖に18種類のアミノ酸が結合した多糖蛋白になります。主成分はTPG-1で免疫調節作用があることが明らかになっています。

現在はこのキノコを採取することはできませんが、中国ではこの元になるカイ栓菌の菌糸体で培養して「フアイア」を製造しています。中国では漢方第一類抗がん新薬として保険治療の適応となっていますが、日本では保険適応となっておりません。副作用として、希に起こる軽い下痢症状が出るという報告がされています。

近年、医療研究での成果が目覚ましい最先端をいく中国では既に1992年から抗がん剤として認可され、使用されています。日本でも早く認可されて多くの患者さんに届けられるよう、現在働きかけを続けております。

「フアイア」との出会い

私がここまで「フアイア」を広めたいと願っているのには、理由があります。私はオックスフォード大学で博士号を取り、1998年、帰国してからは日本で初めて保険診療でセカンドオピニオンを始めました。日本中からやって来る、正しい治療を受けているのに治らないという困難な状況にいる患者さん達を多く診療するうちに、より患者さんのためになる治療はないかと探し求めていたときに漢方に出会いました。漢方は体に優しく、副作用も少なくて「保険が適用される漢方ならば使ってみたい」という患者さんの選択肢と成り得たのです。

漢方医として経験を積む中で、2人に1人ががんと診断され、3人に1人ががんで亡くなるこの時代に、がんに効く漢方薬こそ必要だと探し求めていたところ、「フアイア」に出会いました。「フアイア」に手ごたえを感じ、出会ってからもう十数年、治療の中で使用しています。しかし大規模臨床試験がないため、自分の中で確信はありつつも、エビデンスと共に紹介できないために良さを伝えにくいという葛藤がありました。やはり漢方でエビデンスを確立するのは難しいのかと諦めかけていたのですが、2018年にランダム化大規模臨床試験が実施されてそこを突破したので、私もようやく腑に落ちて、今では積極的に「フアイア」を啓蒙するようになりました。

失語症で苦労した学生時代

当院では他の病院やクリニックで治らない、満足できない患者さんを対象にしています。がん患者さんの予約を優先した診療を行っておりますが、その点を承諾していただいた、他のさまざまな症状を抱えた患者さんも来院されています。その中には、吃音を抱える子供さんもいます。私も小さい頃失語症(書いてある字が読めない)で吃音があったので、何か社会に還元したいという思いから、そういった取り組みをしています。

小さい頃の私は失語症に随分と悩んでいました。将来の職業を考えるときも、子供ですから、夢はいっぱい持つのですが、どうしても失語症のことを考えてしまい、目指す前に諦めてしまうことが多かったです。考えた末、医師ならば患者さんと話をすることがメインだから、自分でもできるかもしれないと思うようになりました。

今考えると医者でも原稿を音読する機会がある職業なのですが、当時はそう信じて込んで試しに受けた代々木ゼミの模試では15,000人中12,000番代という、夢から覚めるような結果になり、これではいけないと高校二年生の冬から勉強を始めました。正直に言って医師になって患者を救いたいという崇高な思いというよりは、失語症も抱え、財産もそこまでない普通の家だったので、「何とかして生きていかなければならない」という思いで必死で努力し、2浪して医学部に入ることができました。

挫折の先で、たどり着いた医療の在り方

医学部に入ってからも、優秀な学生に囲まれて、楽しく勉強する日々でした。外科医として今では頂点を極めた同期も何人もいます。私は10年間外科医として勤めましたが、ずっと外科医として手術をしている自分がどうしても想像できませんでした。そこで外科医として突き詰めるより色々な事を経験した方が自分らしいと考えて、オックスフォード大学に留学し、免疫学の勉強をしました。

博士号を取得しないと奨学金を全額返済しないといけなかったため、5年間一度も日本で帰らずに必死で勉強しました。寝言も英語で言うくらい、勉強漬け、英語漬けでした。でもあのときあれ程大変な思いをしたから、何だってできるという今の心の支えになっています。

私が医院を開院したのは、患者さん一人ひとりに向き合い、丁寧に診療を行いたいと考えたからです。自費診療で予約制ですが、困った事があればいつでも電話でもメールでもしてくださいと伝えています。診察では十分、30分から1時間くらいじっくりと患者さんと向き合うことができます。実は若い頃は真剣に仕事をするあまり、その方にとって最良だと思う治療を選択しない患者さんに対して「何故?」と、まず自分の疑問を投げかけてしまう医師でした。でも私自身年を経て、挫折もいくつも経験した今では最初に患者さんの気持ちを大切にしてからその理由を聞くようにしています。

病気を診るだけではなく患者さんの人生観を何より尊重した治療を心掛けています。

人生は掛け算でレアになる

私の人生は不運と失敗の連続で成り立ってきました。でも年を経るにつれて考え方が変わって、悪いことがあっても、ラッキーだと思うようにしようと……自分はラッキーだったって……いや、どう考えてもラッキーに思えないこともあるにはありますね……。でも起こったことは変えられないから、後から振り返ってそれで良かったんだと思えるように、今から行動しようと考えを切り替えていますし、患者さんにもそう伝えています。

スティーブ・ジョブズの言葉に「コネクティングザドッツ」(Connecting the dots)という言葉があります。「好きなことをやりなさい。好きなことをやっていると将来顧みたときにその点が繋がっているよ」、という意味だと思っています。私もそのときに全力で取り組んだ事が後から結びついて、今の自分に繋がっていると分かりました。私の娘にも、「将来を見据えていくら布石を打ってもそれは繋がらないよ、それよりも好きなことをやりなさい」と伝えています。それがいくつもの点となって繋がり、後から効いてくるから、と。

人生は掛け算で唯一無二のレアになれると思っています。私の場合は20代の外科医 、30代の免疫学者、 40代からの漢方医です。外科医×免疫学者×漢方医という、三つの掛け算が出来る人は、日本ではまずいないのではないでしょうか。人生を振り返ると、様々な困難や挫折がありましたが、レアになるために生きてきたんだと今ようやく納得できるようになりました。

ライフワークとして「フアイア」を広める

私がそのときそのときに必死で取り組んだこと、その点と点が繋ぎ合った先にあったのが、「フアイア」です。2018年に明らかな抗がんエビデンスが出てからは、「ああ、やっぱり本物だったんだ」と、長年漢方に携わってきて感じていた事は間違いではなかったのだと報われた心地がしました。だからこそ、これからは「フアイア」を広めることが私のライフワークだと確信しております。

日本中全ての人に「フアイア」を知っていただきたいですが、特に年間約10万人罹患する、がんの中でも最も罹患者数が多い乳がん患者の方にまず知っていただき、使用していただきたいです。そのためには医療機関の方のご協力が欠かせません。がんの標準治療である外科治療、薬物療法、そして放射線療法に抗がんエビデンスを積み重ねるフアイアを補完的に使用することは理に適っていると確信しています。医師の方にも、「GUT」に掲載された論文や、大規模臨床試験によるエビデンスを最優先にして情報提供する日本フアイア研究会の発表する資料を読んでいただき、納得していただいた上で「フアイア」を使用していただきたいと思っています。

多くの患者さんが「フアイア」を享受できる環境を整えるべく、これからも尽力していきます。

新見正則医院

院長

1959年生まれ、京都府出身。1985年、慶應義塾大学医学部卒業後、英国オックスフォード大学で移植免疫学を学ぶ。専門は血管外科・消化器外科。セカンドオピニオンのパイオニアでもある。また漢方医としても研鑽を積む。認知症の母の介護経験もあり、帝京大学附属病院で診療。2013年、ハーバード大学イグノーベル賞医学賞を受賞。2020年、新見正則医院開院。テレビ出演多数。著作に『西洋医がすすめる漢方』、『仕事に効く! モダン・カンポウ』『患者必読 医者の僕がやっとわかったこと』『イグノーベル的バランス思考 極・健康力』など多数。

https://niimimasanori.com/