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「エンジニアの新たなロールモデルを」 日本エクセム株式会社•後藤大介代表取締役

2021年06月22日

IT業界のシステム運営コンサルティングに取り組む日本エクセム。業界に精通する後藤大介代表取締役は「日本のエンジニアの労働環境や働き方は、決して最適なものではありません」といい、「エンジニアの新たなロールモデルを作りたい」と語る後藤代表取締役にIT業界の課題を聞いた。

過剰な投資で後れを取っている日本

当社は韓国企業の日本法人として、IT業界のデータベースを中心としたシステム運営のコンサルティングを行っています。ネットサービスを運営している企業や製造ラインなどの安定運用を維持するためには、適切な運用が必要です。そこで当社がさまざまな課題解決に関与し、システム運用の支援を行なってきました。その中で当社の強みと言えるのは、データベースの技術力です。経験豊富なエンジニアを多くそろえ、データベースに特化した専門性の高い支援を行える企業はIT業界でもそう多くはありません。そして当社ならではの小回りがきくサービスで、あらゆる課題に迅速に対応してきました。今後もIT業界で存在感を発揮していくためにも、社員の成長による会社の成長を意識し、また社員の働き方改革を意識しながら、エンジニアのあり方を再定義していけるような会社づくりを目指していけたらと考えています。

私はこれまで、外資系のIT企業でビジネスをしていたことから、海外と日本のシステムに対する意識の違いも肌で感じてきました。例えば海外では、こまかなトラブルがあっても許容されることがあります。「処理が継続できれば良し」と深追いはせず、それよりも新たな開発やシステムをリリースすることに注力していく。それが一般的なのです。また、システムが継続して稼働できる度合いを示す「可用性」は、日本では99.8%が常識だとされています。これは365日24時間、システムをフルに稼働させて、システム停止が許されるのは月に1~2時間程度となります。そうした基準の中で開発が行われていくため、当然ながら慎重に進める必要があり、多くのコストがかかります。重要なシステムはともかく、そこまで可用性を高めなくてもいいシステムが多いのです。必死に維持している99.8%の可用性を95%程度に下げただけでも、システムにかかるコストは半分以下に軽減されます。それでも実質的にはそれ以上の可用性を保てることがほとんどです。結果として別の投資が可能となります。そして何より、IT業界で働くエンジニアの労働リスクや負担も大きく減らすことができます。つまりシステムに対しての世の中の意識に、新たな提案と許容があるべきだと考えています。

日本のIT業界では大掛かりなシステムを構築する場合、設計に1年、開発に1年、テストに1年の計3年程度の歳月をかけることが多いです。つまり世に出るころには古いサービスになってしまうケースも多く、そこに海外とのスピードの差が発生しています。海外では、まずは構築し問題があれば対応するという考えがあり、スピードは日本に比べるとけた違い。トラブルに対しての意識も違うため、日本ではトラブルが全く起きないように注力しますが、海外ではトラブルは起きる前提で、起きれば都度対処しようという柔軟な考え方が根付いています。一概に日本の進め方が悪いとは言いきれませんが、もっと投資を効果的なことに注力していかなければ日本のサービスがどんどん遅れていってしまうことも事実。少しでも我々のような会社が適切な投資を訴えていくことで、システムに対しての新たな意識づけを啓蒙していきたいと考えています。

DB分析ツール「MaxGauge(マックスゲージ)」でスピーディーな対応

またシステムを運用していく上で重要なことは、小回りがきくことだと考えています。例えば企業の情報システムを取り扱っている部署の方々は、仕事の範囲など限定できず、あらゆるユーザーからの問合せやクレーム対応に追われています。現在は24時間稼働が当たり前のシステムなども多く、本当に膨大な業務と課題に悩まされています。しかし、開発を外部に委託することが一般的な日本では、そういった運用の細かい部分の設計までは委託では難しく、運用に入ってトラブルが起きたら、情報システムの担当者が対応しなくてはなりません。つまり、システムを作って提供するのみで完結ではなく、運用が重要なのです。

業界的には、構築と運用を分け、構築を外部に委託することが普通になってしまっているので、当社では私自身をはじめ、常に運用を意識した小回りの利くサービスを徹底してきました。たとえ直接的な仕事の範囲外だとしてもユーザーのシステムでトラブルが起きた場合は、全力でフォローに回るといった意識で業務を行っています。ネットサービスというのは、基本的に24時間いつでもどこでも見られるのがメリットです。その一方で、ネットサービスを円滑に閲覧できるよう、寝ずにシステムと向き合って戦っている方たちが多く存在していることも事実。IT業界の裏側では本当に泥くさいほどのエンジニアの汗と涙があるということです。

そうした多くのエンジニアの負担を軽減するためにも、当社はデータベース分析ツール「MaxGauge(マックスゲージ)」を提供してきました。マックスゲージは、データベース内の現状を把握・分析し、課題を解明して改善するツールとなります。さまざまな対応をする中で、高い技術がなくても負担なく自由に処理ができるようになるため、多くのシステム管理者から重宝されています。
例えばこのツールを取り入れれば、トラブル調査で24時間かかっていた工数が、わずか1時間ほどに削減することもできます。システムトラブルは、原因解明がいかにスピーディーかつ正確にできるかが重要な鍵を握ります。原因が分からないまま運用をすることをIT業界では「再現待ち」と呼びますが、「再現待ち」を極力残さないこと。またもし残してしまっても次にはスピーディーかつ確実に対処するための準備をしておけるかが重要になってくるのです。当然ながらシステムが停止すれば、ネットサービスを展開している会社さんの売上や信頼性も減少し、大きな損失に繋がってしまうでしょう。そうした観点から考えても、マックスゲージの貢献は大きな可能性を秘めたものだと考えています。

「仕事はゲーム」常に楽しみながら向き合う

私はいつも社員に対して、「仕事はゲームだ」と伝えています。自分たちのやりたい仕事は何かと考えた時に、人に言われた仕事をやるだけではつまらないですし、トラブルシューティングの仕事だけに四六時中向き合うだけの仕事はしてほしくない。仕事はゲームだという感覚を持ちながら、常に楽しみながらシステムに向き合ってもらいたいと思うからです。そのためにもスキルを身につけ、「自分にしかできない仕事」を習得していくことが大切なのではないでしょうか。

シムシティというゲームがあるのですが、このゲームは自分が自由に街を創造し、成長させていくゲームです。建物を建て、人口を増やし、農業で畑などを耕しながらバランスよく街を作っていかなければいけません。それは会社も同様で、一人ひとりの社員が自由な発想を持ち、好きな分野や得意な分野を活かして成長していくことが重要。その積み重ねが、最終的には会社の繁栄にも繋がると考えています。
IT業界における日本のエンジニアの労働環境や働き方は、決して最適なものではありません。だからこそ我々のような会社が率先してスタイルを変えていかなければいけないと感じていますし、当社がエンジニアのロールモデルを作っていきたいと思っています。
IT業界はこれからどんどん人が溢れ、やがて仕事のできない人は失業する時代を迎えるでしょう。または優秀な外国人にとって代わられるかもしれません。そうした状況を指をくわえて見ているのではなく、業界の階層構造や無駄なコストや時間に意義を唱えていくのも私の役目の一つだと考えています。今後もシステム運用の根本を効率的に改善していけるように啓蒙していきながら、新たなスタイルを築いていけるよう邁進していきたいですね。

◆プロフィール
1971年生まれ。千葉県出身。東京電機大学を卒業後、1994年に日本オラクル株式会社へ入社。
2000年よりセージェントテクノロジー、2005年よりサンブリッジアンシスに移り、2008年より日本エクセム株式会社を創業。代表取締役に就任。現在に至る。

日本エクセム株式会社
http://www.ex-em.co.jp